「筋肉痛」について
こんにちは✨
理学療法士の早川です^_^
今回は「筋肉痛」について解説したいと思います。
目次
1.筋肉痛とは?
筋肉痛の正式な医学名称は
「運動誘発性筋損傷」
EIMD:Exercise Induced Muscle Damage
と言います。
損傷とありますが、筋肉痛は筋肉のどの部位で起こっているのでしょうか?
私たちが筋肉として見えている部分は骨格筋になります。
骨格筋は筋束という筋肉の束に分けられます。
筋束は筋線維(筋細胞)が集まって構成されており、
筋線維はさらに細かい筋原線維という組織が集まって構成されています。
運動誘発性筋損傷EIMD、いわゆる筋肉痛は筋線維の損傷ではなく、
筋原線維の損傷で起こっています。
ノルウェーの研究チームが2010年に報告した論文では、太ももの大腿四頭筋のエクササイズ(10回30セットのエキセントリック運動)をした後に、筋線維ではなく筋原線維が損傷することが確認されています。
また、運動直後は30%程度の損傷だったのに対して、
96時間後には50%近くの筋原線維が損傷していたことが分かりました。
図:膝関節伸展筋群に300回のエキセントリック運動を行った後の筋原線維の変化
(引用:Raastad T,Owe SG,Paulsen G,et al.Changes in calpain activity, muscle structure, and function after eccentric exercise. Med Sci Sports Exerc. 2010;42(1):86-95)
「筋肉痛が2日後にやってきた」ということをよく耳にしますが、
この時間差による現象だということが考えられます。
また、ノルウェーの研究チームは、筋原線維の損傷の程度と筋力の関係についても調査しています。
損傷の程度が大きいものほど筋力の低下も著しいことを報告しています。
図:筋原線維の損傷の割合と筋力の変化
(引用:Raastad T,Owe SG,Paulsen G,et al.Changes in calpain activity, muscle structure, and function after eccentric exercise. Med Sci Sports Exerc. 2010;42(1):86-95)
これは当たり前なことですが、激しいトレーニングによって筋肉の損傷が大きくなればなるほど、一時的に筋力もより低下するというものです。
しかし、一方でデンマークの別の研究チームはこのようなことも報告しています。
太ももの大腿四頭筋のエクササイズ(210回のエキセントリック運動)をしたグループと、
電気刺激によって強制的に筋肉を収縮させたグループを比較しています。
電気刺激を行ったグループの方がより筋線維が損傷したにも関わらず、筋力はあまり低下しませんでした。
(引用:Crameri RM, Aagaard P, Qvortrup K, Langberg H, Olesen J, Kjaer M. Myofiber damage in human skeletal muscle: effects of electrical stimulation versus voluntary contraction. J physiol. 2007;583(Pt 1):365-380)
なので、筋原線維の損傷と筋力低下の関係はまだ謎があるようです。
筋力には筋原線維だけでなく代謝の酵素も大きく影響しているからかもしれません。
また、最近見かける電気刺激と併用したトレーニング方法も分からないことが多そうです。
2.筋肉痛とパフォーマンス
筋肉の収縮には大きく2つの種類があります。
短縮しながら筋力を発揮するコンセントリック収縮と、
伸張しながら筋力を発揮するエキセントリック収縮です。
コンセントリック収縮の運動(CON運動)では筋肉痛にはならず、
エキセントリック収縮の運動(ECC運動)でのみEIMDが発症することが報告されています。
①最大筋力の低下
筋原線維の損傷を伴わないCON運動では、運動直後に一時的に最大筋力が低下するものの、翌日には元のレベルに回復します。
一方、ECC運動では、運動直後に最大筋力が低下し、その状態が4日間(96時間)まで続きました。
つまり、筋肉痛が起きてから最大筋力が元のレベルに戻るまで1週間ほどかかっています。
図:エキセントリック運動後とコンセントリック運動後の等尺性最大筋力および関節可動域の変化
(引用:Yamaguchi S, Suzuki K, Inami T, et al.Changes in Urinary Titin N-terminal Fragment Concentration after Concentric and Eccentric Exercise. J sports Sci Med 2020;19(1):121-29. )
②関節可動域の制限
筋肉痛の時は最大筋力が低下するだけでなく、関節可動域も制限がかかります。
上記のグラフは二の腕(上腕二頭筋)のECC運動を行ったものですが、肘の関節可動域が制限されていることがわかります。
また、筋力の低下と同様に4日間(96時間)まで続いています。
③周径囲の増大
同じ研究で二の腕の太さ(周径囲)を計測すると、運動を行っていない腕と比較して運動をした腕は約1cmほど太くなっていました。
これは筋の浮腫、腫れによって起こります。
④パフォーマンスの低下
EIMDの前後で20mスプリントやアジリティテスト、ジャンプ動作などを比較した研究では、24時間後にすべてのパフォーマンスは著しく低下し、72時間後には回復したという報告があります。
また、クレアチンキナーゼや乳酸脱水素酵素などの筋損傷の程度を示すバイオマーカーも同様に24時間後に顕著な低下が生じ、72時間経過には元の値近くまで回復しました。
(引用:Khan MA, Moiz JA, Raza S, et al. Physical and balance performance following exercise induced muscle damage in male soccer players. J Phys Ther Sci 2016; 28(10):2942-49. doi: 10.1589/jpts.28.2942)
やはり筋肉痛の時は機能と同様にパフォーマンスが3日間ほど低下します。
それでは、その時にトレーニングをするとどうなるのでしょうか?
よく筋肉痛の時は運動を控えるように言われるのですが、実際のところどのような影響があるのかを調べてみました。
3.筋肉痛の時に運動しても大丈夫?
結論から言うと、筋肉痛の時に運動しても問題はありません。
研究では、運動によってEIMDを引き起こし、2日後と4日後に再度同じ運動を行った結果、痛みや筋力低下がさらに悪化することはありませんでした。
図:EIMD発症中のエキセントリック運動による最大筋力と筋痛の変化
(引用:Nosaka K, Newton M. Repeated Eccentric Exercise Bouts Do Not Exacerbate Muscle Damage And Repair. J Strenght Cond Res 2002;16(1):117-22. )
また、別の研究ではEIMDの時に運動したグループと運動しなかったグループで、4週間後に同じ運動をすると、
EIMDの時に運動したグループの方がEIMDになりづらいということが報告されています。
(引用:山口翔太, 岡田純一. 遅発性筋痛時に更なる伸張運動を行うことで次に生じる遅発性筋痛は抑制される. Strength & conditioning journal: 日本ストレングス&コンディショニング協会機関誌 2018;25(2):18-24)
つまり、筋肉痛の時に運動すると悪くなることはなく、筋肉痛の時に運動した方がむしろ回復した後には筋肉痛になりづらくなるということになります。
しかし、だからといって筋肉痛を誘発すると、痛みや筋力低下、可動域制限などで一時的に生活の質を低下させます。
また、スポーツ競技においては試合で思うような結果を出せなかったり、筋肉痛による体の変化がケガの原因となりうる可能性もあります。
そうならないためには筋肉痛をコントロールできることが重要となります。
初回からきつい運動をするのではなく、徐々に負荷を上げていくことで筋肉痛の重症化を避けることができます。
RBE(Repeated Bout Effect)とは、同じ運動を連続して実施することで筋肉痛が発症しにくくなる慣れのことです。
筋肉痛やそれに伴う筋力・関節可動域の低下、生化学マーカーの上昇を抑制する作用をいいます。
最大筋力の10%の負荷量の運動でも効果があるので、トレーニング初心者で筋肉痛を発症させたくない場合は、初回30%、2回目50%と徐々に負荷量を増やしていくことで重症化を避けるという工夫があります。
また、どのような運動で筋肉痛が発症しやすいのかを把握することも大切になります。
4.筋肉痛を発症させやすい運動とは?
筋肉痛が発症しやすい条件は①強度、②速度、③範囲に影響します。
①強度について
強度が強い運動ほどEIMDが発症しやすくなります。逆に低強度であれば高回数であっても発症しづらくなります。
2020年の台湾の研究チームが以下のような研究をしました。
最大筋力の100%で10回の運動、50%で20回の運動、10%で100回の運動を2-4セットしたところ、
直後は10%で運動したグループが最大筋力において明らかに低下したものの、翌日以降は10%で運動したグループの方が回復が早いという結果となりました。
図:異なる運動強度で実施した伸張運動後の最大筋力の変化率
(引用:Chen TC, Nosaka K, Sacco P. Intensity of eccentric exercise, shift of optimum angle, and the magnitude of repeated-bout effect. J Appl Physiol(1985).2007;102(3):992-999.)
②速度について
速度は、より速い速度で運動する方がEIMDが強く発症します。
秒速30度と秒速210度でトレーニングをして比較した研究では、30回の運動では差がなかったものの210回の運動をした後には、速い速度で運動したグループの方が明らかにEIMDが強く発症したことが報告されました。
図:異なる角速度で実施した伸張性運動後の最大筋力の変化率
(引用:Chapman DW, Newton M, McGuigan M, Nosaka K. Effect of Lengthening contraction velocity on muscle damage of the elbow flexors. Med Sci Sports Exerc.2008;40(5):926-933.)
③範囲について
運動を実施する範囲、つまり可動域は大きい(伸張位から行う)ほどEIMDが強く発症します。
腕の運動で、肘関節50°〜130°の範囲で運動したグループと、肘関節100°〜180°の範囲で運動したグループでは前者の方が明らかにEIMDが強く発症したことが報告されています。
図:異なる関節可動域で実施した伸張性運動後の最大筋力の変化
(引用:Nosaka K, Sakamoto K. Effect of elbow joint angle on the magnitude of muscle damage to the elbow flexors.Med Sci Sports Exerc. 2001; 33(1):22-29. )
5.まとめ
今回は筋肉痛、EIMDについてまとめてみました。
①高強度、速い速度、伸張位で実施する(大きく動かす)運動ほどEIMDは強く発症しやすくなります。
②また、筋肉痛の時には運動を控えるようによく言われますが、実際にはEIMD中に運動してもパフォーマンスは悪化しないばかりか、次に運動するときには筋肉痛にはなりづらくなります。
③しかし、筋肉痛は一時的には痛みや筋力低下、可動域制限などによって、生活の質やパフォーマンスが低下するため、1週間後に試合など大事なイベントが控えている場合は注意が必要です。
運動方法やスケジュール管理によって筋肉痛をコントロールすることが大切になります。
◯メディカルフィットネス ViPro-ヴィプロ-
『ゆるめて、整えて、鍛える。これからを楽しむためのカラダ作り。』
運動が苦手だったり、ケガや病気が心配な方のために作ったフィットネスです。
しばらく体を動かしていなくて、動くとすぐに疲れるといったことはありませんか?
肩こりや腰痛、関節の痛みなどはどうでしょう?
体が硬くて、そもそも運動が苦手だったりしませんか?
「運動は始めたいけど、スポーツジムはちょっと・・・」というあなたへ。
運動が苦手でも、ケガや病気が心配でも大丈夫。
メディカルフィットネスViPro-ヴィプロ-は経験豊富な理学療法士があなたをマンツーマンで徹底サポート。
医学的な視点で、あなたのカラダに合わせた、あなただけのプログラムをご提供致します。
<アクセス>
小田急線・千代田線「代々木上原駅」東口より徒歩5分
小田急線「代々木八幡駅」より徒歩5分
千代田線「代々木公園駅」八幡口より徒歩5分
〒151-0062
東京都渋谷区元代々木町10-8 代々木上原tt 3階
営業時間: 9:00 ~ 20:00(最終受付19:00)
休業日:日曜日
TEL:03-6868-5793